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とよはらくにちか さく「そがごろう いちかわだんじゅうろう」 豊原国周 作「曽我五郎 市川團十郎」 /ホームメイト

本役者絵は「曽我物語」を題材とした「曽我物」と呼ばれる歌舞伎の一場面を描いています。
「曽我物語」は、一族の所領争いに巻き込まれ、「工藤祐経」(くどうすけつね)に父を殺された「曽我十郎」、「曽我五郎」の兄弟が、1193年(建久4年)5月に富士の裾野で開催された大規模な巻狩(まきがり:軍事訓練のために行う狩猟)において、父の仇を討つ物語です。
曽我兄弟は仇討ちに先立ち、心願成就の祈願のため「箱根権現」(現在の箱根神社:神奈川県足柄下郡)を参拝しました。そこで兄の曽我十郎は「木曾義仲」(きそよしなか)が奉納した刀剣「微塵丸」(みじんまる)を、弟の曽我五郎は「兵庫鎖太刀」(ひょうごくさりたち)を賜ったとされています。
本役者絵では、工藤祐経を討った曽我兄弟が、騒ぎを知り駆け付けた武士達と大立ち回りを演じる場面が描かれました。「市川團十郎」(いちかわだんじゅうろう)が演じる曽我五郎は、刀剣を振り上げ、「市川左団次」(いちかわさだんじ)が演じる「御所五郎丸」(ごしょのごろうまる)に斬りかかろうとしています。右手側で刃を交えているのは、「尾上菊五郎」(おのえきくごろう)の演じる曽我十郎と、「中村芝翫」(なかむらしかん)が演じる「仁田四郎」(にったしろう)。「中村福助」(なかむらふくすけ)が演じる曽我十郎の恋人「大磯とら」(おおいそとら)の姿もあります。
2振の刀剣と、1振の薙刀が交錯する一瞬を切り取ったこの構図は、本役者浮世絵に息を呑むような緊迫感を与えました。曽我兄弟が振るう刀剣には、箱根権現の霊験あらたかと感じさせる迫力が満ちています。役者の表情と共に、刀剣にも目を奪われる巧みな描写は秀逸と言う他ありません。
作者の「豊原国周」(とよはらくにちか)は幕末から明治時代にかけて活躍した浮世絵師です。作品への評価だけでなく、生涯に117回転居し、妻も40人余り変えたという型破りな人物像でも知られています。