- 明治浮世絵
ようさいのぶかず さく「ふくしまちゅうさたんきりょこう」 楊斎延一 作「福嶌中佐単騎旅行」 /ホームメイト

本浮世絵の中央に描かれる馬上の軍服姿の人物は、1892年(明治25年)から1年4ヵ月をかけて単騎でのユーラシア大陸横断を敢行した福島安正(ふくしまやすまさ)。戦前の日本国民にとって、この大冒険を成し遂げた福島安正は英雄的存在でした。
1892年(明治25年)2月、在ドイツ日本公使館の駐在武官の任期を終えた陸軍少佐の福島安正は、通常の手段での帰国を選ばず、個人的な旅行という名目で大陸横断の冒険を開始。
当時ロシアが建設を始めたシベリア鉄道や地域の情勢を現地調査する必要があると考えた福島安正は、1人馬に乗って厳冬のシベリアを駆け、ウラル・アルタイ山脈も越え、途中で大けがを負いながらも1893年(明治26年)6月に横浜へ到着。1万数千キロメートルに及ぶシベリア単騎横断で福島安正が得た情報や知見は、のちの日露戦争において活用されました。
福島安正は単騎横断中に中佐に昇進、その後もアジア・ヨーロッパ各地を視察して情報収集に努めました。語学にも優れて数ヵ国語を操り、外国軍との交渉にも活躍。情報将校として働いた福島安正は、最終的には男爵位を与えられ華族の一員となり、陸軍大将に昇りました。
本浮世絵の作者である楊斎延一(ようさいのぶかず)は楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)の門人で、日清戦争や日露戦争を題材にした戦争絵の作品を多く発表。
本浮世絵の、奥にそびえる山脈の寒々とした表現はいかにも異国の地を思わせ、夜中に月光の下で地図を読む福島安正の武装は軍刀のみで心細く見えますが、付き従う2匹の白馬が福島安正と視線を交わすように描かれることで、単騎横断の孤独な印象は和らいでいます。