- 行列浮世絵
うたがわさだひで さく「よりともこうぎょうれつのず」 歌川貞秀 作「頼朝公行烈之図」 /ホームメイト

本浮世絵は、江戸を出発した武士の行列が東海道を通って、京都へ向かう場面を描いています。題名には「頼朝公」とありますが、画中の街道や人々の風俗は江戸時代のもの。鎌倉時代の人物の名を借りて、実際は本浮世絵が制作された当時の様相を描いていると言えるのです。
画面左端の大きな一対の石垣は、江戸の玄関口である高輪大木戸(たかなわおおきど)。現在も残る片方の石垣が国の史跡に指定されており、泉岳寺や東禅寺は、現在も観光地として有名です。
行列をなす武士の多くは青地に白い縞を引いた羽織をまとい、旗指物や吹貫の一部も同じ配色にすることで統一感が生まれています。同時に赤地や紫地の旗指物が華やかさを添えますが、そこには白抜きで笹竜胆紋(ささりんどうもん)があしらわれます。
本浮世絵が制作されたのは1865年(元治2年/慶応元年)と推測されますが、この年は江戸幕府14代将軍徳川家茂が長州藩の動きを警戒し、上洛して大坂に入った年です。
本浮世絵の本当の主題は、上方へ向かう幕府軍の行列ではないでしょうか。題名の「頼朝公」や旗指物の笹竜胆紋は、江戸幕府にかかわることを直接描写できなかった当時の「言い訳」と考えられます。
本浮世絵の作者である歌川貞秀は、俯瞰による風景絵を得意とした浮世絵師。本浮世絵と同じ場所を反対側から描いた「東都高輪風景」の他、本浮世絵と全く同じ視点からの作品である「東海道高輪風景」を残しています。