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つきおかよしとし さく「いちのたにがっせん」 月岡芳年 作「一ノ谷合戦」 /ホームメイト

本合戦浮世絵は、波打ち際を騎馬に乗って駆け、遠く視界に武者をとらえた源氏の武将「熊谷直実」(くまがいなおざね)の姿です。敵がまとっているのは、朱色を基調にした彩色豊かな甲冑(鎧兜)。明らかに風格が、並の武将とは異なります。のちに判明するのですが、気品を備えた武者は、「平敦盛」(たいらのあつもり)でした。
1184年(寿永3年)2月、「源平合戦」で源氏が平家との戦いを優勢に進めていた「一ノ谷の戦い」での一場面。騎馬で戦場を走り去ろうとする武将を、熊谷直実は呼び止めます。身にまとっている物品が格調高いのを見定めて、戦功を欲した熊谷直実は、武将に対決を挑みました。
決闘の末に熊谷直実は、海岸の砂浜に武将を組み伏せます。もがく武将の顔を確認すると、成人前の息子とさして差のない年齢の若者。命乞いをする態度など見せずに、すでに死への覚悟を決めています。熊谷直実は若者を斬り、自らの戦功としました。
陣営に戻り、持ち帰った首級は平敦盛だと、熊谷直実は知ります。戦場での武士の宿命とは言え、成人にも満たない年齢の少年の殺害に及んだ己を熊谷直実は恥じ、のちに出家しました。
2人の武将が悲劇に直面する前の場面を、本合戦浮世絵で描いた「月岡芳年」(つきおかよしとし)は、幕末から明治初期にかけて活躍。生々しい流血の描写が特徴の無残絵を好んで描いていたとされますが、多様な浮世絵を手がけた手腕に再評価が進んでいます。
